Notch-Delta Signaling
- 大脳皮質発生において神経系前駆細胞からニューロンに分化する細胞を選別する機構
- 川口 大地、吉松 剛志、後藤 由季子
Kawaguchi et al. Development (2008) 135, 3849-3858.
マウス大脳皮質発生の「ニューロン産生期」に神経系前駆細胞は約11回細胞分裂する。この細胞分裂により神経系前駆細胞とニューロンを必要な数産み出す必要があるが、どのようにして必要な時期に必要な割合で未分化細胞と分化細胞を産み出すのかは不明であった。現在、適当な時期にニューロンを産み出す非対称分裂が誘導されるという可能性が主に考えられている。しかし本研究において我々は、非対称分裂を考えずとも「均一な細胞集団(未分化細胞群)」から「不均一な細胞集団(未分化と分化細胞が混在)」への移行を説明できる別の可能性を考え、Notch経路の細胞間におけるシグナル差の増幅機構が大脳皮質発生においてニューロンになる細胞の選択に働いていることを示す結果を得た。即ち、神経系前駆細胞がニューロンに分化するかは周囲の細胞とのNotchリガンドDelta-like 1(Dll1)量の差に基づくことがわかり、周囲の細胞よりもDll1量が高い細胞はニューロンに分化するのに対し、逆に周囲の細胞よりもDll1量が低い細胞は未分化性が維持された。これまでNotchが未分化性維持に働くことを示した例はショウジョウバエから哺乳類まで多く存在するが、細胞間のNotchリガンド量の差をきっかけとした「細胞間競合」による分化細胞の選択を哺乳類の脳で示した例は初めてである。Dll1量の細胞間での差をはじめに生むメカニズムは不明であるが、それこそがどの細胞が分化するかを決めるきっかけと成り得るため非常に興味深い。
脳室に面した領域に存在する神経系前駆細胞のうちNotchリガンドDll1の発現量が周囲の細胞に比べて高い細胞は細胞間相互作用を介してニューロンに分化選択される。一方周囲の細胞よりもDll1の発現が低い細胞は未分化性が維持される。ニューロン分化した細胞は脳表層へと移動していくため、神経系前駆細胞同士の細胞間競合は維持されることでニューロン産生を継続して行っていると考えられる。