PAK

スキャフォールド分子PAKによるAktの選択的機能制御

樋口麻衣子、大西啓介、後藤由季子
Higuchi et al. Nat. Cell Biol. (2008) 10, 1356-1364.

Aktは、細胞の増殖・生存・運動・極性・小胞輸送・グルコース代謝など、実に様々な過程において必須の役割を果たすキナーゼである。このような様々な機能を発揮する際、Aktは異なる基質をターゲットとしているが、それぞれのコンテクストにおいてAktがどのようにして必要な基質を選んでいるのかは分かっていなかった。本研究で我々は、PAKというキナーゼがAktと結合してAktの膜移行を促進するとともに、Aktの活性化因子PDK1とも同時に結合してAktの活性化効率を促進する「スキャフォールド分子」であることを見出した。そして興味深いことに、PAKはAktの基質全てのリン酸化を促進するのではなく、一部の基質のみのリン酸化を促進すること、さらに、Aktの細胞運動性/浸潤能に関わる機能を選択的に制御することも明らかとなった。 Aktは様々な癌で異常に活性化していることが観察されており、抗癌剤のターゲットとなることが期待されている。しかし、Aktは正常な細胞の増殖や生存にも必須の役割を果たすために、Aktをターゲットとした抗癌剤の開発は難しい、という問題を抱えていた。今後、Akt経路の特異性の制御メカニズムの詳細が明らかとなれば、「Aktの癌に関わりの深い機能のみを選択的に抑制する」というストラテジーにより、Akt依存的な癌を制圧するための新しい薬剤ターゲットを提供することが出来ると考えている。

PAKは、活性型Racと結合し構造変化を起こしてはじめてPDK1ならびにAktと結合して「スキャフォールド分子」として機能するため、Racを活性化するシグナルに依存してAktを活性化し、Aktが持つ細胞運動性/浸潤能に関わる機能を選択的に制御する。本研究では、PAKがAktの選択的な機能制御を行うメカニズムの1つとして、PAKがAkt1特異的に「スキャフォールド分子」として機能する、ということも明らかにした。