JNKによる細胞死誘導機構の解析
鶴田文憲、砂山潤、後藤由季子
Tsuruta et al. EMBO J. (2004) 23, 1889-1899.
広範なストレス刺激で共通に活性化するJNK(c-Jun N-terminal kinase)は、ミトコンドリア上流において細胞死制御に重要な役割を果たすことが示されてきた。しかしながら、JNKによる細胞死誘導の分子メカニズムについては未だその大部分が不明であった。一方、近年Bcl-2ファミリーに属するBaxとBakがミトコンドリアを介する細胞死シグナルの必須分子("gatekeeper")であることが示された。Baxは通常14-3-3などの細胞質アンカーによって細胞質に局在しているが、細胞死シグナルが入ると何らかのメカニズムにより細胞質アンカーから解離し、ミトコンドリアに移行して細胞死を誘導する。本研究により我々は、JNKが14-3-3を直接リン酸化し、このリン酸化によってBaxと14-3-3の解離、並びにBaxのミトコンドリア移行を引き起こすことを見いだした。また、細胞に14-3-3のリン酸化部位変異体を発現しておくと、活性型JNKあるいはストレス刺激により引き起こされるBaxのミトコンドリア移行や細胞死が抑制されることがわかった。以上の結果から、14-3-3が細胞死誘導時におけるJNKの主要なターゲットであることが示唆された。
近年、様々な細胞死促進タンパク質は、AktやPKAなど生存促進に貢献するキナーゼによってリン酸化されることで、14-3-3と結合しその活性を抑制されることが報告されている。我々は、JNKによる14-3-3のリン酸化によってBax以外の細胞死促進タンパク質も14-3-3から解離することを見いだしている(未発表)。従って、14-3-3は生存シグナルと細胞死シグナルが拮抗する収束点として機能していると考えられ、14-3-3との結合を通じて多くの細胞死促進タンパク質が同時に生死シグナルによって制御されうることを示唆している。