大脳皮質アストロサイトの多様性の発見

前述のように、神経幹細胞は異なる種類のニューロンを次々と生み出し、それらニューロンは深層から表層へと配置され6層構造を形成する。 一方で、ニューロン産生の後に生み出されるアストロサイトは、2-6層においてほぼ均一な性質の細胞集団(原形質型アストロサイト)から 構成されると一般的に考えられてきた。しかし我々は最近、アストロサイトにもニューロンのように層構造に依存した特徴 (形態的特徴や遺伝子発現的特徴)を有することを世界に先駆けて発見した(Lanjakornsiripan et al., Nature Communications, 2018)。 一つのアストロサイトはそのカバーする範囲でのシナプスを共制御しうる機能的なユニットとしても捉えられるので、 アストロサイトの「形」は重要な意味を持ちうる。興味深いことに、上層(2/3層)アストロサイトは下層(6層)アストロサイトに比べて大きく、 脳表層に対し垂直で、分岐が多く、シナプス包囲率が高い傾向が観察された。このことは、異なる層に配置するアストロサイトが異なる「形」を介して ニューロンとの特異的な相互作用を持っている可能性を示唆している。

近年の研究から、大脳新皮質アストロサイトの多様性が次々と明らかになってきている。しかし、どのような分子メカニズムにより層構造に応じた アストロサイトの特徴が生み出されるのか、また各サブタイプのアストロサイトはどのような機能的特徴を持つのかについては殆どわかっておらず、 現在我々はこの点を明らかにするために研究を進めている。


Q. ニューロン分化期の後にグリア分化期がある理由とは?
この答えは未だ不明であるが、グリアがあるとニューロンの正確な配置が邪魔されるから後から作るという可能性や、 ニューロンの配置が決まってからでないとそれをサポートするグリアが適切に配置できないという可能性が考えられる。 我々は最近、この後者を支持する結果を得た。前述のように、我々はアストロサイトが層ごとに異なる特徴を持つことを明らかにしたが、 その層ごとの違いが実はニューロンの層に依存して確立することを見出したのである(Lanjakornsiripan et al., Nat Comm, 2018)。 具体的には、Dab1というニューロン配置に重要な遺伝子をニューロン特異的に遺伝子破壊し、ニューロンの配置を異常にしたマウスを作製したところ、 アストロサイトの層依存的な形態的特徴や遺伝子発現の特徴に異常が見られることが明らかとなった。 このことから、大脳新皮質においてアストロサイトとニューロンは種々の相互作用を行うことで層特異的な特徴をお互いに作り上げている可能性が示唆された。 現在、大脳新皮質における層特異的なニューロンとアストロサイトの相互作用の分子基盤とその意義を解明中である。