成体神経幹細胞のニューロン産生効率を司る分子p57

哺乳類の大人の脳には「成体神経幹細胞」が存在し、一生に渡ってニューロンを作り続けている。 これらの新生ニューロンは回路に組み込まれ、記憶の形成、本能行動、ストレスからの回復などに重要な役割を果たしていると考えられている。 また、ニューロン新生が異常に低下すると、抑うつなどの気分障害につながることも示唆されている。 では、この成体の神経幹細胞はどのようにして長期間維持されているのか。 また、成体神経幹細胞(普段はごくまれにしか分裂しない)の分裂は運動や神経活動によって活性化されるが、 この活性化はどのような仕組みで起きるのか。

私たちはこれまでに、成体神経幹細胞の分裂頻度を低く保つ責任因子(p57)を同定した。 そして興味深い事に、p57をノックアウトしてから長期間経つと成体神経幹細胞の数が減少してしまうことを見つけた。 従って、神経幹細胞の分裂できる回数には上限があって、素早く分裂しすぎるとその上限にすぐに達してしまい、分裂しなくなることが示唆された。 つまり、成体神経幹細胞は出来るだけ分裂頻度を抑えることによって自身を長期間(一生)保っていると考えられる。 また、運動や神経活動などの刺激に応じてp57タンパク質が減少する事が、成体神経幹細胞の活性化を引き起こすことも明らかとなった。 以上のようにp57による成体神経幹細胞の細胞周期の制御が、短期的なニューロン新生の亢進と長期的なニューロン新生の維持の両方において 重要な役割を果たす事が分かってきた。 さらに、老マウスにおいてはじめてp57をノックアウトすると、加齢によって減少したニューロン新生が再活性化されることも確認された。 私たちは、このような発見を介して高齢化社会/ストレス社会において脳機能の低下を軽減することに貢献したいと考えている。